編集長コラム

#編集長コラム9 若手が辞める業界から、若手が育つ業界へ

若手が辞める業界から、若手が育つ業界へ

ホテル業界では、「若手が続かない」という言葉をよく耳にする。
せっかく採用しても数年で辞めてしまう。厳しく指導すると離職し、丁寧に接すると成長しない。最近の若者は我慢ができない。そんな声が、経営者や管理職から聞こえてくることも少なくない。

しかし、その言葉を口にする前に、私たちは自らに問い直す必要がある。

若手が続かないのか。
それとも、若手が続きたいと思える業界を、私たちがつくれていないのか。

ホテル業界の人材問題は、感覚だけの話ではない。帝国データバンクの2026年1月調査では、正社員不足を感じる企業は全業種で52.3%と、四年連続で半数を超えた。一方、「旅館・ホテル」で非正社員不足を感じる企業は44.0%となり、三年連続で改善している。DXやスポットワークの普及によって、現場の不足感には変化も表れ始めている。[1]

だが、人が一時的に確保できることと、若手が育ち、定着することは同じではない。

厚生労働省によれば、宿泊業・飲食サービス業に就職した新規大学卒業者のうち、三年以内に離職した人の割合は55.4%に達する。全産業の新規大学卒業者では33.8%であり、その差は小さくない。[2]

採用を頑張るだけでは、追いつかない構造になっている。

もちろん、若手社員の側にも仕事に向き合う責任はある。ホテルは、お客さまの安全と大切な時間を預かる仕事だ。自分の気分によってサービスの質を変えることはできない。厳しさや緊張感、繰り返しの訓練が必要な場面もある。

ただし、厳しさと理不尽さは違う。
育成と放置も違う。
伝統と、変化を拒むことも同じではない。

「まずは現場で覚えろ」
「背中を見て学べ」
「自分たちの若い頃はもっと厳しかった」

こうした言葉だけで、人を育てられる時代ではない。かつては、長く働けば仕事を覚え、役職が上がり、給与も上がるという将来像が、ある程度は見えていた。しかし現在は、社会全体で働き方や職業選択の幅が広がっている。成長の道筋も、評価の理由も、将来の待遇も分からない環境で、若手に我慢だけを求めることは難しい。

若者に根性がなくなったのではない。
意味の分からない我慢に、敏感になったのである。

ホテルの仕事には、本来、大きな魅力がある。
接遇、料理、飲料、語学、文化、地域、観光、マーケティング、収益管理、チーム運営。ホテルでは、一つの施設の中でさまざまな専門性に触れられる。国内外から訪れるお客さまと接し、人生の節目や忘れられない時間を支える。これほど幅広く、人間力と専門性を磨ける仕事は多くない。

ところが、その魅力を若手に伝え切れているホテルは、どれほどあるだろうか。

目の前のシフトを埋めることが優先され、なぜこの仕事を行なうのかを教える時間がない。仕事を覚えた人に業務が集中し、その人自身も後輩を育てる余裕がない。管理職はプレーヤーとして忙しく、面談や評価は形式的になる。若手が将来について相談しても、「まずは三年続けなさい」で終わってしまう。

これでは、若手が自らの未来を描くことはできない。

採用は入口にすぎない。
本当に問われるのは、入社後の育成設計である。

どの仕事を、いつまでに、どの水準まで身に付けるのか。何ができれば次の役割に進めるのか。評価と報酬はどうつながるのか。宿泊、料飲、宴会、営業、管理部門を越えた経験はできるのか。専門職を目指す道と、マネジメントを目指す道は用意されているのか。

こうした道筋が見えるだけでも、若手の仕事への向き合い方は変わる。

現場OJTのあり方も見直さなければならない。同じ説明を先輩社員がおのおの繰り返し、教える人によって手順や基準が変わる。その状態を「現場教育」と呼び続けてよいのだろうか。

動画、VR、スマートグラス、AIなどを使えば、作業手順や判断基準を標準化し、若手が必要なときに確認できる環境をつくれる。テクノロジーの目的は、人が人を教えなくて済むようにすることではない。基礎的な説明を仕組みに任せ、先輩社員が仕事の意味や判断、接遇の機微を伝える時間を取り戻すことにある。

若手を育てるとは、優しくすることではない。
期待すること、任せること、見守ること、評価すること、そして必要なときには正しく指摘することである。

教育には、時間も費用もかかる。短期的な効率だけを求めれば、教育は真っ先に削られる。しかし、人を育てないホテルは、いつまでも経験者の採用競争から抜け出せない。

育成は、福利厚生ではない。
ホテルの品質と未来をつくる経営投資である。

そして、若手だけを変えようとしてはいけない。優れたホテルマンが、そのまま優れた上司になるとは限らない。自分が仕事をできることと、人にできるようになってもらうことは、別の能力だからである。管理職にも、時代に合ったマネジメントを学ぶ機会が必要だ。

ホテル業界には、長年受け継がれてきた技術と誇りがある。それを次世代へ渡すためには、若手に昔と同じ我慢を求めるのではなく、伝統の意味を現代の言葉で伝えなければならない。守るべきものを守るためにも、育て方は変える必要がある。

一人の離職は、個人の事情かもしれない。
しかし、同じ職場から若手が繰り返し辞めるのであれば、それは組織から発せられているメッセージである。

若手が辞める業界から、若手が育つ業界へ。

そのために必要なのは、採用広告を増やすことだけではない。成長を実感できる仕事、納得できる評価、将来を描ける待遇、相談できる上司、挑戦できる機会をつくることである。

次世代が育たない業界に、次の時代は来ない。

若手を未来の労働力として見るのではなく、未来のホテル業界を共につくる仲間として迎えられるか。

いま、問われているのは若手の覚悟だけではない。
若手を育てる、私たちの覚悟である。

ホテレス編集長 義田


[1] 帝国データバンクの2026年1月調査では、全業種の正社員不足割合は52.3%。「旅館・ホテル」の非正社員不足割合は44.0%で、三年連続の改善。 
[2] 厚生労働省が2025年10月に公表した令和4年3月卒業者の調査では、新規大卒者全体の三年以内離職率は33.8%、宿泊業・飲食サービス業は55.4%。