多彩な商品構成、食の体験を通じて季節や用途に応じた果物の魅力を届ける
――千疋屋総本店の歴史を教えてください。
千疋屋総本店は1834年(天保5年)、江戸時代に果物専門店として創業しました。当時の江戸では「水菓子」と呼ばれていた果物の露天商から始まり、やがて日本橋に店を構え、幕末には幕府御用達となりました。そこからは果物を日常の食材としてではなく、贈答やもてなしの文化と結び付けて提供するようになります。
明治以降は料亭や宮中への納入や、外国産の果物の取り扱いも始めました。大正からはフルーツパーラーを展開するなど時代の変化に応じて果物のあり方を広げ、一貫して果物の品質と価値を見極めるために勉強しながら、責任を持って商売を続けてきました。
現在の千疋屋総本店の事業は、大きく物販事業と料飲事業で構成されています。物販事業では果物に加えて、ケーキ、ジャム、ゼリー、焼き菓子など果物を使った加工品も幅広く取り扱い、季節や用途に応じて果物の魅力を届けることができる商品ラインアップを展開しています。料飲事業ではフルーツパーラーや日本橋本店の洋食レストランを通じて、果物の魅力をより深く体験していただいています。
物販、飲食のすべての事業において、私たちは果物の品質と価値を見極め、最後まで責任を持って提供するという考え方を共通の軸に据えて取り組んでいます。

千疋屋総本店のフルーツパフェ

慶應義塾大学卒業後、コロンビア大学留学、広告会社勤務を経て、1985年千疋屋総本店入社。部長、常務取締役を経て、98年代表取締役社長に。2025年4月1日に6代目当主として「大島代次郎(おおしま だいじろう)」を襲名する。高級果物専門店としての価値を軸に据えつつ、果物の魅力を生かした手ごろな価格帯の商品を拡充し、国内外に向けた事業を推進することで、伝統を守りつつ「次の代」を見据えるという経営哲学を推進している。
お客さまに果物が使われる現場の実感を生産者にフィードバックする役割も担う
――千疋屋総本店では、「良い果物」の基準はどこに置いていますか。
果物は食べ物ですから、糖度、酸味、香り、コク、食感、余韻といった味わいの要素が大前提となります。その一方で、果物は外見の良さも求められます。
たとえばショートケーキに乗っているイチゴの形が整っていなければ瞬間的に期待感が削がれ、味わう前に少し気分が下がってしまうでしょう。外見の評価がそのもの自体の評価に大きく関わる点は、野菜とは異なる果物ならではの特徴だと思います。
さらに外見が整っている果物は、結果として味わいも優れているケースが多いと言えます。それは生育の過程で無理がなく、丁寧に育てられていることが、姿かたちにも、味わいにも表れるからです。
ギフトを主力とする千疋屋総本店では、果物の外見を特に重視します。たとえばメロンの場合、網目の入り方や真ん丸な形はもちろん、美しいT字を描いている蔓の形にもこだわっています。
――産地や生産者との関係性において、品質を守るためのルールはありますか。
産地や生産者との関係性において明文化されたルールは設けていませんが、その一方で大切にしていることがあります。できる限り生産者のもとに直接足を運び、現場の状況を確かめながらコミュニケーションを取ることです。
果物が私たちの手もとに届いた際のコンディションやお客さまの評価を、生産者にしっかりとお伝えすること、そして、こちらから一方的にお伝えするだけでなく、生産者の声や背景を丁寧に伺うことも同様に大切です。農産物は工業製品ではありませんから、その年ごとに天候や作柄が変わります。今は地球温暖化の影響で不測の事態が発生する可能性も高まっています。
品質を守るためには、こうした双方向で丁寧なコミュニケーションが欠かせないと考えております。
新たなチャレンジを繰り返しながら次世代にも支持される存在であり続ける

――高単価でも納得していただくために、何を大切にしていますか。
価格の正当性を納得していただくために必要なのは品質であり、決して揺らぐことのない「安全」と「おいしさ」を担保しなければなりません。千疋屋総本店では果物に保証書を付け、召し上がって満足いただけなかった場合は交換や返品の対応をさせていただいています。
加えて近年意識する必要が高まってきているのは、その果物がどのように育てられてきたのかについて、生産者のこだわりや産地の背景をしっかりとお伝えする姿勢です。自然環境と人の手によって大事に育てられる果物に込められた想いを深く広く知っていただき、その品質に関する価値を立体的に伝えたいのです。
また、料飲事業においても様々な工夫を重ねています。見た目の美しさだけでなく、果物本来の瑞々しさや味わいを損なわないことを大切にしています。
例えば、果物の剥き方やカットにおいては、果汁や果肉をできるだけ損なわないような切り方をしています。弊社のインスタグラムでは、「果物の皮むき」シリーズを公開しています。中でも梨の皮むきの動画は、ご家庭では馴染みのない剥き方であったこともあり、760万回を超える再生数となり、多くの方にご覧いただきました。
こうした発信も、果物の専門店として、果物の価値や品質への向き合い方を伝えるための取り組みだと考えています。
――今後のビジョンを教えてください。
千疋屋総本店は「世界から愛されるフルーツのグローバルブランドになる」というビジョンを掲げています。それは単純に海外に出店するといった次元の話ではなく、私たちが考えている正しい果物のあり方や基準を世界の人々に認めていただき、結果として信頼され、愛される存在になることをゴールとして設定しているのです。そのやり方は多様にあるとは思いまずが、やはり重要なのは自分たちのコアを集中して磨き続けることだと考えます。
千疋屋総本店はこれまでの歴史の中で、時代に先駆けて空港や駅ナカでも生菓子を展開する挑戦をしてきました。それによってシェアを高め、認知度を拡大できたと自負しています。これからも新たなチャレンジを続け、若い世代の皆さまにも支持していただける千疋屋総本店であり続けたいと思います。