編集長コラム23

#編集長コラム23 ホテルを変えるのは、ホテル会社とは限らない。ゴルフ業界の先駆者PGMが沖縄で挑む、新しいリゾートのかたち

ホテル業界の未来を変えるのは、本当にホテル会社だけなのだろうか。
沖縄・恩納村に誕生したPGMホテルリゾート沖縄を訪れながら、そんなことを考えていた。
PGMと聞けば、多くの人がまず思い浮かべるのはホテルではなく、ゴルフだろう。
全国でゴルフ場を運営し、日本のゴルフ業界を牽引してきたPGM。その企業が本格的にホテル・リゾートの世界へ踏み込んできた。
2026年7月にグランドオープンしたPGMホテルリゾート沖縄は、PGM初のラグジュアリーリゾートホテルである。201室の客室に加え、5つのレストランと3つのバー、スパ、サウナ、屋内外のプール、インドアゴルフなどを備える。隣接するゴルフ場ともつながり、単なる「ゴルフ場に付随した宿泊施設」とはまったく違うリゾートがつくられている。
公式に掲げられている言葉は、「静なる贅も、動なる贅も。」。
この言葉は、このホテルの立ち位置をよく表していると思う。
ゴルフをする。
海を眺める。
食を楽しむ。
身体を整える。
何もしない時間を過ごす。
ゴルファーだけを対象とするのではなく、さまざまな目的を持つ人が一つの場所でそれぞれの時間を楽しむ。

実際に訪れてみると、「ゴルフの会社がホテルをつくった」という単純な話ではないことが分かる。
そして私が今回、建物やゴルフ場と同じくらい興味を持ったものがある。
「人」である。
今、ホテル業界の人と話していると、必ずと言っていいほど出てくる言葉がある。
「人が採れない」。
人手不足だからサービスを簡略化する。
人手不足だからレストランの営業時間を短くする。
人手不足だからロボットやセルフサービスを導入する。
もちろん、それが日本のホテル業界の現実であることはよく分かっている。

私自身、全国のホテルを訪れ、多くの経営者や総支配人と話す中で、人材不足がホテル経営そのものを左右するほど大きな問題になっていることを感じてきた。
だからこそ、PGMホテルリゾート沖縄を見て少し驚いた。
人がいる。
これだけ大きな規模の新しいホテルでありながら、必要な人材をしっかりと集めてスタートしている。
もちろん、地域性や採用条件なども異なる。一つのホテルだけを見て「ホテル業界は人手不足ではない」などと言うつもりはない。

しかし、目の前の光景を見ながら、私は一つの疑問を持った。
本当に、「人がいない」のだろうか。
それとも、働く人から「ここで働きたい」と選ばれる理由を、ホテル側が十分につくれていないのだろうか。

今回のホテルに人が集まったことは、決して偶然ではないはずだ。
開業までには、荒井達也総支配人をはじめ、人事チームや開業に携わった多くのメンバーによる相当な準備と設計があったのだと思う。

採用とは、求人広告を出して人数をそろえることではない。
どんなホテルをつくりたいのか。
どんな人に来てほしいのか。
ここで働けば何を経験できるのか。
そして、このホテルで働くことが、その人の人生にどんな意味を持つのか。
それを伝え、「ここで働いてみたい」と思ってもらう。
採用もまた、ホテルづくりそのものなのである。

今回、特に印象に残ったのが荒井総支配人の存在だった。
荒井氏は、完成したホテルのオペレーションだけを見てきた総支配人ではない。これまでリゾートの開発から建設・運営まで幅広く携わってきた人物である。
実際に話をしていても、ホテルを「運営する人」というより、ホテルという事業そのものを「つくる人」という印象を強く受けた。
建築を知る。
開発を知る。
運営を知る。
そして、人を知る。
ホテルが出来上がるまでの甘いも酸いも知っているからこそ見える景色があるのだろう。

私がこれまで出会ってきた多くの総支配人とは、少し違うものを感じた。
そして何より印象的だったのが、人を引きつける求心力である。
人手不足の時代に人を集めるためには、給与、休日、福利厚生といった条件を整えることは当然重要だ。
しかし、それだけで人の心まで動かせるわけではない。
「この人と一緒にホテルをつくってみたい」。
そう思わせられるリーダーがいること。
これは求人票には書けないが、極めて大きな採用力なのではないだろうか。

総支配人の仕事とは、完成したホテルを管理することだけではない。
「こんなホテルをつくりたい」という未来を語る。
そこに人を集める。
そして、集まった人たちを同じ方向へ向かわせる。
これからの総支配人には、そんな力がますます求められると思う。

そして今回の滞在を通じて、もう一つ考えたことがある。
「ブランド」である。
今、日本のホテル市場には、世界中から次々とホテルブランドが入ってきている。
ラグジュアリー、ライフスタイル、セレクトサービス、長期滞在型。
ブランドの選択肢は、この十数年で一気に増えた。

かつては、有名な海外ブランドを掲げること自体に大きな価値があった。
オーナーにとっては投資家や金融機関への説明材料となり、ゲストにとっては品質への安心感になる。そして働く人にとっても「あのブランドで働いている」ことが一つの誇りになった。
もちろん、ブランドの力は今も大きい。
世界規模の予約網、会員組織、運営ノウハウ、人材育成、認知度。
それらはホテル経営にとって極めて重要な資産である。
しかし、これだけ多くのブランドが日本へ入ってくれば、「有名だから」という理由だけでは次第に差別化が難しくなる。

オーナーも問う。
「なぜ、このブランドなのか」。
ゲストも問う。
「なぜ、このホテルなのか」。
そして働く人も問う。
「なぜ、ここで働くのか」。
だから私は、もう「有名なブランドだから、そのブランドを借りる」というだけの時代ではないと思っている。

ブランドを選ぶ前に、
「自分たちは、どんなホテルをつくりたいのか」
という思想がなければならない。
その思想を実現するために最適なブランドを選ぶ。
あるいは、自分たち自身でブランドをつくる。
順番はこちらであるべきだと思う。

ブランドが思想をつくるのではない。
思想が、ブランドをつくる。
PGMホテルリゾート沖縄を見ていると、さらにその先の可能性も感じる。
これからホテル産業に新しい風を吹き込むのは、必ずしも既存のホテル会社だけではないのではないか。
ゴルフ。
鉄道。
不動産。
スポーツ。
エンターテインメント。
食。
ウェルネス。
それぞれの世界で顧客やコンテンツ、ノウハウを持つ企業が、ホテルという「滞在」を手に入れる。

これはかなり面白いことだと思う。
ホテル会社がホテルをつくれば、どうしても発想の起点はホテルになる。
しかし、ゴルフを知り尽くした会社がホテルをつくれば、起点はゴルフかもしれない。
ウェルネス企業なら健康から考える。
エンターテインメント企業なら体験から考える。
食の会社ならレストランからホテルを考えるかもしれない。
ホテルという「箱」を先につくり、その中にコンテンツを入れるのではない。

自分たちにしかないコンテンツや文化を、ホテルという滞在体験へ変換していく。
そこから、これまでホテル業界だけでは思いつかなかったホテルが生まれる可能性がある。
PGMホテルリゾート沖縄が目指しているのも、単に「ゴルフをする人を泊めるホテル」ではないのだろう。
荒井総支配人は開業前から、ゴルフとリトリートを融合し、「社交と共感の場」となるリゾートを構想していた。
ここは非常に重要だと思う。

既存のゴルファーを泊めるだけなら、ホテルをつくる意味は限定的である。
しかし、ホテルを訪れた人に新しいゴルフとの接点をつくることができれば、話は変わる。
ホテルそのものが、PGMにとって新しい顧客との入口になるからだ。

実は、私自身がまさにそうだった。
私はゴルフをしない。(ピックルボールがマイブーム)

仕事柄、周囲でゴルフの話になることは多い。
「どこを回った」「スコアはいくつだった」「今度一緒に行きましょう」。
そんな会話を聞きながら、ときどき自分だけ一つの「共通言語」を知らないような感覚になることがあった。
ところが今回、ホテルにあるシミュレーションゴルフを見て、美しい芝のそばを散歩すると、楽しそうに思えてきた。
考えてみれば、緑の中を歩く。
身体を動かす。
仲間と話す。
食事をする。
そして、80歳になっても仲間と同じ時間を楽しめる可能性がある。

そんな趣味は、人生の中で意外と多くないのかもしれない。
この一年、私自身の健康への意識もずいぶん高まった。
だからなのか、これまで自分とは縁遠いと思っていたゴルフという世界が、今回初めて少し身近に見えた。

「ゴルフ、やってみようかな」。
そう思った。

ゴルフの会社がホテルをつくる。
それは、ゴルファーを泊めるためだけではないのかもしれない。
ホテルを入口に、これまでゴルフと接点のなかった人を、新しい世界へ連れていく。
もし私自身がその一人になったとすれば、PGMがホテルをつくった意味の一つを、身をもって体験したことになる。

ホテルには、知らなかった世界への入口をつくる力がある。
知らなかった土地を好きになる。
知らなかった料理に出会う。
知らなかった人とつながる。

そして、ときには、知らなかった自分の楽しみまで見つける。
ホテルを変えるのは、ホテル会社とは限らない。
むしろホテルの外にある産業が持つ強み、文化、顧客、そして思想がホテルと交わったとき、これまでになかったホテルが生まれるのではないだろうか。

どんなに新しいホテルをつくっても、最後にそこへ命を吹き込むのは人である。
ブランドの名前より先に、思想がある。
その思想を語るリーダーがいる。
その思想に共感する人が集まる。
そして、その人たちがお客さまに新しい体験を届ける。
PGMホテルリゾート沖縄を訪れて、そんなホテル産業の新しい可能性を感じた。

さて、私もその新しい世界への入口に立ってしまった。
まずは、クラブの握り方から荒井GMに教えてもらおうと思う。

HOTERES編集長
義田 真平

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