
ADRは過去最高。
稼働率も90%を超える。
ホテル業界には、そんな明るい数字が並んでいる。
だが、その数字を見ながら、ずっと気になっていることがある。
そのお客さまは、「一度のお客さま」で終わっていないだろうか。
ホテル経営では、ADRやRevPAR、稼働率といった指標が重要であることは言うまでもない。
しかし、本当にホテルの価値を測るべき指標は、お客さまとの関係がどれだけ長く続くかではないだろうか。
一度だけ12万円の客室をご利用いただくお客さまと、毎年結婚記念日に帰ってきてくださるご夫婦。
売上だけを見れば、前者が勝つ年もあるだろう。
しかし、10年、20年という時間軸で見れば、その価値はまったく違う。
ホテルは客室を売る仕事ではない。
人生の節目を預かる仕事である。
結婚記念日。
誕生日。
退職祝い。
家族旅行。
お別れの会。
人生には、何度もホテルが必要になる瞬間がある。
だからこそホテルは、「また帰ってきたい」と思っていただける理由を、一つひとつ積み重ねていかなければならない。
私の愛するリーガロイヤルホテル大阪のリーチバーには、毎日のように訪れる常連のお客さまがいる。
毎日宿泊しているわけではない。
それでもバーの扉を開け、いつもの席に座り、バーテンダーとの会話を楽しむためにホテルへ帰ってくる。
これもホテルの価値である。
ラグジュアリーホテルで少し気取って飲むマティーニもいい。
けれど、私には鳥繁の親父が、銀のやかんで入れてくれる大関の熱燗がいい。
結局、人は酒を飲みに行くのではない。
その人に会い、その場所に流れる時間を味わいに行くのである。
ホテルも同じだ。
AIが進化し、予約も接客も効率化される時代。
CRMはお客さまの好みを記録し、生成AIは最適な提案をしてくれるだろう。
しかし、最後に選ばれる理由は、「またあの人に会いたい」「またあのホテルへ帰りたい」という感情である。
その感情は、システムだけではつくれない。
スタッフ一人ひとりのおもてなし。
ホテルが育んできた文化。
積み重ねてきた信頼。
それらが重なって初めて、「また帰ってきたい」という気持ちは生まれる。
ホテルの価値は、一度では決まらない。
何度も足を運びたくなり、人生の節目ごとに思い出していただける存在になれるかどうか。
そこに、本当のホテルの価値がある。
私も、いつの日かこのコラムを読んでくださっている皆さんと、鳥繁の熱燗を酌み交わしながら、ホテルの未来について語り合えたらうれしく思う。
さて、あなたのホテルの価値は、本当に「一度」で決まっていないだろうか。
ホテレス編集長 義田