編集長コラム12 そのインフルエンサーは、未来の顧客を作れるか

#編集長コラム12 PRは、誰に届いているのか

ホテル業界で、PRの重要性はますます高まっている。

新規開業、リブランド、レストランの刷新、アフタヌーンティー、バー、スパ、客室改装、地域連携。ホテルが発信すべき情報は増え続けている。SNSや動画メディアの影響力も大きくなり、従来の新聞、雑誌、テレビだけではなく、インフルエンサーやクリエイターとの関係も欠かせなくなった。

その変化自体は、決して悪いことではない。

ホテルは、閉じた世界にいてはいけない。新しいお客さまと出会い、これまで届かなかった層に価値を伝えるために、メディアやインフルエンサーの力を借りることは必要である。むしろ、発信しなければ、良いホテルであっても存在しないのと同じになってしまう時代である。

しかし、ここで一つ問いたい。

そのPRは、本当に来てほしいお客さまに届いているのか。

最近、ホテルのPR施策を見ていると、違和感を覚えることがある。PR会社がメディアやインフルエンサーを集め、露出をつくる。SNSには写真が並び、短期的には話題になる。アフタヌーンティーには若いお客さまが集まり、予約も入る。数字だけを見れば成功に見える。

だが、その後のディナーは埋まらない。バーにつながらない。宿泊につながらない。ホテルのファンにもならない。写真を撮るためには来るが、そのホテルの思想や価値は理解されないまま終わる。

それは本当に、ホテルのPRと言えるのだろうか。

インフルエンサーマーケティングは大切である。否定するつもりはまったくない。若い世代への接点をつくり、視覚的に魅力を伝え、短期間で認知を広げる力は大きい。ホテル業界も、その力をもっと学ぶべきだと思う。

ただし、選ばなければならない。

フォロワー数が多いから。
写真がきれいだから。
拡散力があるから。
PR会社が連れてきたから。

それだけで判断してしまうと、ホテルのブランドは少しずつ薄まっていく。ホテルが理想とするお客さまと、発信する人の読者層や価値観が合っていなければ、露出は増えてもブランド価値は高まらない。むしろ、来てほしいお客さまから見たときに、「このホテルは自分のための場所ではない」と感じさせてしまうことさえある。

PRとは、露出量を競う仕事ではない。
誰に、どのような文脈で、何を伝えるかを設計する仕事である。

特にホテルは、商品単体で完結しない。客室、料飲、宴会、バー、サービス、空間、歴史、地域、スタッフの姿勢。すべてが重なって一つのブランドをつくる。だからこそ、PRで伝えるべきものも、単なるメニューや料金、開業日の情報だけではない。

そのホテルは、何を大切にしているのか。
誰に来てほしいのか。
どのような時間を提供したいのか。
他のホテルではなく、なぜそのホテルなのか。

ここを整理しないまま外部に発信しても、情報は散らばるだけである。

先日、あるホテルグループの広報担当者と話す機会があった。そのグループは今後、新規開業を続け、ホテル数を大きく増やしていく計画を持っている。一方で、急拡大に伴い、PR体制や社内への情報共有、広報人材の育成に課題があるという。各ホテルの魅力を発信する以前に、そもそも社内のスタッフが、自社グループの新しいホテルや方向性を十分に理解できていないという問題もある。

これは非常に重要な視点である。

外に向けたPRの前に、内側に向けたPRが必要なのだ。

現場のスタッフが、自社の新しいホテルについて語れない。グループがどこへ向かっているのか分からない。各施設のコンセプトや強みを説明できない。その状態で、外部メディアやインフルエンサーに発信を任せても、ブランドの軸は定まらない。

インナーブランディングは、広報の前段階ではない。
広報そのものの土台である。

ホテルのPRは、本社広報だけの仕事ではない。総支配人、料飲責任者、宿泊部門、宴会、営業、人事、現場スタッフ。すべての人が、そのホテルの語り手になり得る。お客さまから「今度できるホテルはどんなところですか」と聞かれたとき、スタッフが自分の言葉で語れるかどうか。その積み重ねが、ブランドの強さになる。

PR会社を使うこと自体は悪くない。むしろ、外部の視点やネットワークは必要である。しかし、任せきりにしてはいけない。ホテル側が自分たちの思想、狙う顧客、守るべき世界観を明確に持たなければ、PR会社は露出を取りに行くしかなくなる。

その結果、ホテルの理想とは異なるメディアやインフルエンサーが集まり、短期的な話題は生まれるが、ブランドの輪郭は曖昧になる。

前に、ラグジュアリーとは価格ではなく思想であると書いた。コラボレーションも思想の接続であると書いた。PRも同じである。PRとは、ホテルの思想を、届くべき相手に届けるための翻訳である。

話題になることと、選ばれることは違う。
拡散されることと、愛されることも違う。

ホテルに必要なのは、単なるバズではない。理想のお客さまとの関係を深め、未来のお客さまを育て、スタッフ自身も誇りを持てる発信である。

そのためには、PRの成果指標も見直す必要がある。

掲載数だけでよいのか。
SNS投稿数だけでよいのか。
リーチ数だけでよいのか。
本当に見るべきは、その露出が宿泊、料飲、宴会、バー、採用、ブランド理解にどうつながったかではないのか。

PRは、ホテルの外側に向けた装飾ではない。
経営戦略そのものである。

これからホテルが新しいお客さまと出会うために、インフルエンサーもメディアもPR会社も必要である。ただし、それは自館の思想と顧客像が明確であって初めて生きる。

誰に届けたいのか。
何を伝えたいのか。
その人は、本当に自館の未来のお客さまなのか。

その問いを持たないPRは、ホテルの価値を広げるどころか、ブランドを消耗させてしまう。

PRは、誰に届いているのか。

露出の量ではなく、届くべき相手に届いているか。
その視点を持つことが、これからのホテル広報に求められている。

ホテレス編集長 義田

義田真平(Yoshida Shimpei)

義田真平(Yoshida Shimpei)

㈱オータパブリケイションズ 執行役員 月刊HOTERES編集長

兵庫県出身、阪神タイガースとともに育つ。ホテル等の現場経験から「答えは現場にある」を信念に、営業部長として収益改革を推進。現場起点の実務知と経営視点を融合し、利益と顧客体験の両立やF&B部門の収益化を提言する。現在は自治体連携やラグジュアリー領域など領域を越えて活動。現場を軸に、ホテル・観光業界の未来設計に挑む。