一般社団法人日本宿泊産業マネジメント技能協会 副理事長 平 浩一郎氏
(ホスピタリティキャピタルマネジメント株式会社 代表取締役)
プロフィール
MIT修士(MS)課程修了。国内デベロッパーにてホテル開発・経営企画を担当後、米系金融機関にてバンカー業務および不動産ストラクチャードファイナンスのアレンジ業務を担当。総額1兆円以上の商業用不動産のファイナンスアレンジやM&A、IPO、事業再生案件を担当。ホスピタリティキャピタルマネジメント社起業後はホテルの開発型証券化案件における組成・開発・経営指導をはじめ、外資ホテルへのリブランドやM&A交渉アドバイザーなどの経営および財務コンサルティング業務を行う。立教大学大学院元特任教授(「ホテル経営論」等担当)。

前年は約1200人が受験、1級はホテル経営能力の実践能力が試される場
――初めにホテル・マネジメント技能検定の概要をご紹介ください。
ホテル・マネジメント技能検定は厚生労働省が所管する国家資格でホテルの経営能力を検定し、2018年にスタートして今年で9回目を迎えます。
検定は1〜3級に分かれており、1級は総支配人やそれをも目指す方、もしくは本社部門の部長クラス以上が対象です。2級は30代ぐらいのマネージャークラス、3級はビギナー向けで専門学校生、大学生、20代の社員の方向けとなっています。試験は札幌、東京、名古屋、大阪、岡山、高松、福岡、那覇の8カ所で実施し、9月に筆記試験、11月に実技試験を行います。
筆記試験はマークシート式でマネジメントに関する知識を問いますが、実技試験ではいずれの級もケーススタディが中心となり、特に2級は論述形式の出題と1級はさらに加えて面接官に対して与えられた課題対するプレゼンテーションとそれに対する諮問(ロールプレー)形式で受検いただきます。
学科と実技の合格を持って当該級の「技能士」認定となります。昨年の第8回の受験者数は3級が800人、2級が300人、1級が120人の約1200人。合格率は3級が約50%、2級が約15%、1級が約5%という結果でした。
なお、今年度の受験申し込みの締め切りは7月25日となっています。
――具体的にそれぞれの級でどのようなスキルが必要なのでしょうか。
当検定では、①収益管理力、②企画力、③課題解決力、④管理運営力、⑤専門知識の5つの能力に対して、1級は「事業管理視点」、2級は「業務管理視点、3級は「作業管理視点」から的確な知識と分析力を持ち、判断できる能力を有しているかを判定します。
具体的な判定基準は、1級は原則9年以上(2級・3級合格者はより短い年数で受検可能)の実務経験を有し、ホテル単体の長として、市場環境の現状分析に基づき先読みをしながら、経営戦略を策定できることなど。
2級は原則5年以上(3級合格者はより短い年数で受検可能)の実務経験を有し、ホテルの各部門(宿泊・料飲・宴会)の長として、全体経営方針に基づいた部門目標を設定できること。サービス開発および運用・管理業務を設計・改善できること。他部門との連携を図り、部門収益を向上できることなど。
3級は5年未満の実務経験者でホテルの担当する課、セクションの収益目標やKPIに留意しながら運営・進捗管理できることなどです。
――受験に向けた準備や、出題の傾向などをご教授いただけますか。
どの級も筆記試験に関しては基本的な知識が試されるので、当協会が発行している『ホテル・マネジメント教本2026年度版』を読んで身に付けることやインバウンドの動向など業界にかかわるニュースには日頃からアンテナを張っておくことも重要です。実技試験については、毎年出題の傾向は大きく変わらないので、過去の問題(JLMのHP上に掲載、または販売されている過去問題集には解答例や考え方も掲載)を試してみることも有効です。また、1級、2級はキャリアやどのくらい現場において判断を要求される場数を踏まれているかも重要になってきます。
特に1級はロールプレー面接におけるプレゼンテーション・質疑応答能力をはじめとする総合力が求められますので、受験勉強だけではなく、日ごろからホテルマネジメントに関して問題意識を持って仕事に当たっているのか、そしてどれだけの情報を持っているのかが大切になります。そうした蓄積を元に出題された課題を自分なりに咀嚼して判断し、アウトプットするという過程を見るのが1級の試験です。
実際の出題では、コロナ後は急激に需要が回復して人手不足となったのでヒューマンリソースの配置の問題が大きなトピックスになりました。またインバウンドの増加で宿泊料金が急上昇しましたのでレベニューマネジメントのトピックスも取り上げられました。去年は宴会の需要が戻ったことからFB分野に関する問題も出題されました。このようにホテル業を取り巻く経営環境や法律関係も日々変化しますので、問題の内容もそれに合わせて毎年変えているのも特徴です。
今後の日本の成長産業を支える人材育成にも寄与
――ホテル・マネジメント技能検定の技能士を取得するメリットをお聞かせください。
日本のトップ10に入るような大手ホテル企業複数社においてホテル・マネジメント技能検定を社内研修プログラムに取り入れる事例も増えてきています。例えば総支配人には1級、マネージャーには2級が必須、条件が同等なら3級を持っている学生を優先採用するとケースもあるようです。
また、実技試験の面接官はホテル業界の大手企業のトップマネジメントや大学でのホテル経営ご担当の教員経験者で構成されています。1級合格者は一国一城の主としてホテルの総支配人を任せられるというお墨付きも得られます。
さらに、最近は専門学校・大学などからホテルマネジメント講義を担当する教員の紹介を要請されることも多くなり、その場合はご本人の許可を取った上で、当検定の1級技能士の方をお繋ぎすることも増えています。
――最後にホテル業界や検定に臨む方へのメッセージをお聞かせください。
昨年はインバウンドが4000万人を超え、近い将来6000万人になるとの予測があります。日本の人口が減っていく中で、観光業は外貨の獲得に寄与できる有望な成長産業なのです。インバウンドがもたらす宿泊等の産業の市場規模はもうすぐ10兆円に届こうとしていますから。
そうした中、外資系ホテルが日本各地に進出してきています。彼らのビジネスモデルはホテル経営のリスクを負わない運営受託等の手数料ビジネスである一方で、会員組織も含めて自前のリソースから多くを集客しており、エージェントに頼る日本のホテルとはビジネスモデルが異なっています。また、海外の総支配人の年俸が3000万円以上というケースも多く、現在は日本のホテル企業との差が大きいと言えます。しかし、これは埋められない差ではありません。
この差を埋めるには、いままでの業界カルチャーから脱却して、ゲームチェンジャーとなり得るAI/DX時代に即した新たなビジネスモデルを創造していくことが必要ではないかと感じています。世界では歴史の浅いホテルブランドが急速なスピードでグローバルチェーンに急成長している例も少なくありません。そういったところを参考にするとやるべきことは多岐に亘りますが、その第一歩として、例えばオーナーサイドに競合他社に勝つための提案する、リノベーションなどに際して費用対効果を客観的な数値で提示するといった経営的視点や能力が求められるようになってきました。
こうしたスキルを養い、自身がステップアップするためにもホテル・マネジメント技能検定が一助になれることを望んでいます。
――本日ありがとうございました。
◎ホテル・マネジメント技能検定 https://www.hotel-management.or.jp/
―――
取材・本誌 オータパブリケイションズ 臼井 usui@ohtapub.co.jp
文 アクセント