編集長コラム16

#編集長コラム16 ホテルの価値は、一度では決まらない。 「また帰ってきたい」を育てるホテル経営

ADRは過去最高。
稼働率も90%を超える。
ホテル業界には、そんな明るい数字が並んでいる。

だが、その数字を見ながら、ずっと気になっていることがある。

そのお客さまは、「一度のお客さま」で終わっていないだろうか。

ホテル経営では、ADRやRevPAR、稼働率といった指標が重要であることは言うまでもない。
しかし、本当にホテルの価値を測るべき指標は、お客さまとの関係がどれだけ長く続くかではないだろうか。

一度だけ12万円の客室をご利用いただくお客さまと、毎年結婚記念日に帰ってきてくださるご夫婦。
売上だけを見れば、前者が勝つ年もあるだろう。
しかし、10年、20年という時間軸で見れば、その価値はまったく違う。

ホテルは客室を売る仕事ではない。
人生の節目を預かる仕事である。
結婚記念日。
誕生日。
退職祝い。
家族旅行。
お別れの会。

人生には、何度もホテルが必要になる瞬間がある。
だからこそホテルは、「また帰ってきたい」と思っていただける理由を、一つひとつ積み重ねていかなければならない。

私の愛するリーガロイヤルホテル大阪のリーチバーには、毎日のように訪れる常連のお客さまがいる。
毎日宿泊しているわけではない。

それでもバーの扉を開け、いつもの席に座り、バーテンダーとの会話を楽しむためにホテルへ帰ってくる。
これもホテルの価値である。

ラグジュアリーホテルで少し気取って飲むマティーニもいい。
けれど、私には鳥繁の親父が、銀のやかんで入れてくれる大関の熱燗がいい。

結局、人は酒を飲みに行くのではない。
その人に会い、その場所に流れる時間を味わいに行くのである。

ホテルも同じだ。
AIが進化し、予約も接客も効率化される時代。
CRMはお客さまの好みを記録し、生成AIは最適な提案をしてくれるだろう。

しかし、最後に選ばれる理由は、「またあの人に会いたい」「またあのホテルへ帰りたい」という感情である。
その感情は、システムだけではつくれない。
スタッフ一人ひとりのおもてなし。
ホテルが育んできた文化。
積み重ねてきた信頼。
それらが重なって初めて、「また帰ってきたい」という気持ちは生まれる。

ホテルの価値は、一度では決まらない。
何度も足を運びたくなり、人生の節目ごとに思い出していただける存在になれるかどうか。

そこに、本当のホテルの価値がある。

私も、いつの日かこのコラムを読んでくださっている皆さんと、鳥繁の熱燗を酌み交わしながら、ホテルの未来について語り合えたらうれしく思う。

さて、あなたのホテルの価値は、本当に「一度」で決まっていないだろうか。

ホテレス編集長 義田

義田真平(Yoshida Shimpei)

義田真平(Yoshida Shimpei)

㈱オータパブリケイションズ 執行役員 月刊HOTERES編集長

兵庫県出身。阪神タイガースとともに育つ。ホテルやレストランなどの現場経験を通じて、「答えは現場にある」という信念を培う。現在は創刊60年を迎える業界専門誌の編集長として、歴史を継承しながら、変革が求められるホテル業界の現在地と未来を発信。
編集、イベント、自治体連携を横断し、人材不足、F&Bの収益化、DX、ラグジュアリー、地域観光、次世代経営などを主なテーマに、現場の実務知と経営視点をつなぎ、業界に必要な問いと提言を届けている。

取材、寄稿、講演、セミナー、紙面企画、協業など、ホテル・観光業界の未来につながるご相談をお待ちしてます。

https://hoteres.com/pages/contact

著者の記事一覧