サステナビリティを「選ばれる理由」に変える

[インタビュー:コントロールユニオンジャパン]ホテル経営の新たな世界スタンダード「GSTC認証」とは。

インバウンド需要は過去最高を更新し、大阪IR開業や外資系ホテルの進出によって、日本のホテル市場はこれまで以上に国際競争へとさらされている。そうした中、世界では「サステナビリティ」が新たな評価軸になり始めている。その代表的な規格が「GSTC(グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会)認証」だ。今回は、国際的な認証制度としてトップレベルの信頼性を持つ「GSTC認証」の第三者認証機関である株式会社Control Union Japanの佐田麻衣子氏に、「GSTC認証」について、そして日本のホテルが世界市場で選ばれるために必要な視点について話を聞いた。

「GSTC認証」とは何か――ホテル経営を評価する国際認証制度

――はじめに、株式会社Control Union Japanについて教えてください。

株式会社Control Union Japanは、オランダに本社を置く第三者認証・検査機関の日本法人として2009年に設立されました。1920年創業のコントロールユニオンは、現在では世界80カ国以上に拠点を持ち、バイオマスや繊維、食品、森林、ツーリズムなど、さまざまな分野で品質保証を管理する第三者認証機関として事業を展開しています。

――「GSTC認証」とは、どのような制度なのでしょうか。

GSTCとは「Global Sustainable Tourism Council(グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会)」の略称で、持続可能な観光のための国際スタンダードを策定・管理する国際的な組織です。GSTCが定めるスタンダードは、観光産業におけるサステナビリティの世界共通の指針として位置付けられており、ホテルやツアーオペレーターなど、観光に関わるさまざまな事業者の持続可能性を評価する際の共通の枠組みとなっています。

「GSTC認証」は、このGSTCが定めるスタンダードに基づいて、ホテルなどの事業者が持続可能な観光に取り組んでいることを、GSTCの認定を受けた独立した第三者機関が審査し、認証する制度です。大きな特徴は、企業が主体的に「サステナブルなホテルです」と発信するのではなく、第三者による客観的な審査を経て、その取り組みを証明できる点にあります。

GSTC認証は、ホテル、ツアーオペレーター、地域、MICE、アトラクション、飲食と、業種ごとに6つのスタンダードに分かれています。いずれも「持続可能なマネジメント」「地域社会・経済への貢献」「文化の保全」「環境への配慮」の4つの柱に基づいており、「ホテルスタンダード」においては、これらの観点からホテルの経営を総合的に評価します。

重要なのは、単にチェックリストを満たして終わる制度ではないことです。KPIを設定し、継続的に改善を続ける経営体制そのものが評価されます。第三者認証機関も認定機関による監査を受けるため、審査の公平性や透明性が担保されています。

サステナビリティは、経営基盤を強化する「鍵」へ

――GSTC認証を取得することで、ホテルにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

まずGSTC認証において重要なのは、認証を取得することそのものがゴールではないということです。認証取得に向けた準備や審査のプロセスを通じて、自社のサステナビリティ方針の在り方や長期的な経営計画を改めて見直すことに大きな価値があります。

例えば、水やエネルギーの使用状況を可視化し、削減目標やKPIを設定することで、環境負荷の低減だけでなく、コスト削減にもつながります。また、人材育成の方針や従業員のエンゲージメントを見直すなど、サステナビリティを切り口にホテル経営全体を棚卸しすることで、経営基盤そのものを強化する効果も期待できます。

実際に認証を取得したホテルからは、「社員一丸となってサステナビリティに取り組むことで、組織としての一体感が生まれた」といった声も寄せられています。部門や職域を越えて共通の目標を持つことが、従業員の意識改革や組織力の向上につながるケースもあるのです。

――GSTC認証では、ホテルごとに取り組みは異なるのでしょうか。

はい。GSTC認証では、すべてのホテルに一律の取り組みを求めているわけではありません。例えば調達についても、都市部のホテルでは地方の宿泊施設と同じレベルで地産地消を実現することが難しい場合があります。そこで重要になるのが、「自社にとっての地域とはどこか」「その地域とどのような関係を築くのか」を自ら定義することです。

自社の環境や地域特性を踏まえて何ができるのかを考え、目標を設定し、継続的に改善していく。そのプロセスそのものが、持続可能なホテル経営につながっていきます。

世界市場の中で持続可能性を高め、競争力を磨いていく

――今後、サステナビリティへの取り組みは、ホテルの「選ばれる理由」になるのでしょうか。

すでに欧州のOTAでは、「サステナブルなホテル」と表示するために第三者認証が求められる流れが加速しています。日本でもMICE案件などで、持続可能性への取り組みがホテル選定の条件になるケースが増えています。今後、大阪IR開業や外資系ホテルのさらなる進出によって、世界スタンダードのサステナビリティ対応はホテルの競争力そのものになる可能性が高いでしょう。

サステナビリティへの取り組みは、コストや手間がかかるものと捉えられがちです。しかし、GSTCが目指すのは環境配慮だけではなく、地域や自然、文化、従業員やゲストとの関係性を含めたホテル経営全体の価値を高めることです。認証を取得して終わりではなく、ホテルを取り巻く人々や地域社会、文化、自然環境との関係を持続可能なものにしていくことこそがGSTCが目指す姿といえるでしょう。

今後、日本のホテルが世界市場で選ばれ続けるためには、施設やブランド力だけではなく、「どのような経営理念で地域とともに成長しているのか」が問われる時代になるでしょう。「GSTC認証」は、その姿勢を世界共通の物差しで示すと同時に、ホテル経営そのものを進化させるきっかけにもなり得ます。サステナビリティを単なるコストではなく、ホテルの未来をつくるための「投資」と捉えることが、これからのホテル経営において重要になるのではないかと考えております。

【GSTC(グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会)・日本担当よりコメント】

持続可能な観光は、「未来への投資」へ

持続可能な観光は、もはや遠い海の向こうの先進的な取り組みではなく、観光産業全体の競争力や変化への適応力を支える重要な経営戦略の一つとなっています。環境、社会、経済、そして地域の文化に根差した経営は、地域との信頼関係を深め、従業員の誇りや働きがいを育み、旅行者から選ばれる理由にもつながります。
GSTC認証は、そうした取り組みを客観的に示し、継続的な改善を後押しする仕組みです。 持続可能性をコストではなく未来への投資として捉え、一歩ずつ取り組みを積み重ねていくことが、これからの宿泊業界のさらなる価値向上につながると考えています。GSTCも、その歩みをともに支えていければ幸いです。

Editor’s Note


株式会社Control Union Japan Business & Market Development Special Project Manager 佐田麻衣子氏

【GSTC認証に関するご相談・お問い合わせ】
株式会社コントロールユニオンジャパン 佐田麻衣子
msata@controlunion.com
URL: https://japan.controlunion.com
オフィス:03-6659-4750
携帯:070-1295-4558

【GSTC(グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会)】
URL:https://www.gstc.org/about/?lang=ja


HOTERES編集部

編集部

ホテル専門メディア『HOTERES』の編集チーム。創刊60年の専門誌「月刊HOTERES」と「HOTERES Digital」を横断し、経営、開発、投資、ブランド戦略、運営、食、人材といったテーマを軸に、取材および調査・分析を行っている。業界をリードする経営者やトップマネジメント、事業者・運営会社・投資主体への取材に加え、日本国内のホテル新規開業動向、ホテルチェーン一覧、売上高ランキングなどのデータ収集・整理を継続的に実施。マーケット・リサーチの視点も取り入れながら、ホテルを取り巻くビジネスの構造や意思決定の変化を多角的に提示している。