「ゼロからならmottECO導入に至らなかったかもしれない」

食品ロス削減の第一歩は、料理を「持ち帰る」ことではない。提供された料理を、まずはおいしく食べきっていただくことにある。それでも、体調や料理の量などさまざまな事情によって、どうしても食べきれないことはある。そのとき、まだ食べられる料理を廃棄するのではなく、安全に持ち帰る選択肢を用意する――それが「mottECO」の基本的な考え方だ。「mottECO FESTA 2026」で語られた、食品ロス削減の理想と現場の現実を追った。

まず食べきる。それでも残ってしまったら

「mottECO」という言葉から、食べ残した料理を積極的に持ち帰る運動を想像する人もいるかもしれない。しかし、本来の考え方は逆である。
まず、提供された料理をおいしく食べきっていただく。適量を注文し、適量を提供し、できる限り食べ残しそのものを発生させない。その上で、さまざまな事情によってどうしても残ってしまった料理について、「廃棄する」以外の選択肢として持ち帰りを用意する。
つまりmottECOは、食べ残すための制度ではない。食べきることを大前提とし、それでも発生してしまう食品ロスに対する“最後の受け皿”なのである。
その考え方には、多くの人が賛同するだろう。
しかし、実際に外食やホテルの現場へ導入しようとした瞬間、話は急に難しくなる。

「食べ残したものが誰のものか」すら明確ではなかった

この日の講演で、とりわけ印象的だったのが、消費者庁から語られた制度整備以前の状況である。
食べ残しの持ち帰りについては、保健所や厚生労働省も従来、積極的に推奨する状況にはなかった。加えて、店舗がどこまで責任を負うのかだけでなく、そもそも「食べ残したものが誰のものなのか」という点さえ、民事上整理されていなかったという。
食品を扱うホテル・外食事業者が慎重になってきたことは、むしろ当然だったと言える。
2024年12月に「食べ残し持ち帰り促進ガイドライン」が策定されたことで、状況は大きく動き始めた。店舗と消費者双方の責任や、衛生上注意すべき事項が整理され、事業者が判断するための“よりどころ”が明確になったからである。
講演では、これから導入しようとする事業者が保健所へ相談し、仮に「把握をしていない」と言われた場合には、「厚生労働省の通知とガイドラインを持って、説明していただければ」との発言まで飛び出した。
表現こそ軽妙だが、その意味は重い。
国が制度を整備しただけでは、現場は動かない。制度を保健所、企業、店舗、従業員、そして消費者まで浸透させて初めて、本当の意味で「持ち帰れる社会」になるのである。

帝国ホテルが何度も社内協議を重ねた理由

ホテル側の発表からは、その慎重さがより具体的に伝わってきた。
帝国ホテルでは、以前からスコーンやパン、小菓子など、一部の焼成品について持ち帰りに対応していた。一方、mottECOの本格導入については、法的・衛生的なリスクが大きな壁となり、過去に検討しながらも踏み込めなかった経緯があったという。
導入時には食品衛生担当、調理部門、接客サービス部門などが何度も協議を重ね、中心温度75度で1分間以上加熱された料理を基本に対象メニューを選定。持ち帰った後に再加熱した際、味や品質が大きく損なわれないかまで検討した。
さらに、マニュアルを配布するだけでは「現場の迷いは払拭できない」として、東京・大阪で対面勉強会を複数回開催。参加できなかった従業員のためには録画まで配信した。
食品ロス削減という“正しいこと”を始めるために、ここまで準備をしなければならない。
それがホテル現場の現実なのである。
一方、導入後には、それまで一律に持ち帰りを断っていた従業員から「ストレスが減った」との反応もあったという。ルールを明確にすることは、安全性の確保だけでなく、スタッフがお客様へ堂々と選択肢を提示できる環境づくりにもつながっている。

「ゼロからなら、導入に至らなかったかもしれない」

さらに踏み込んだ発言が出たのが、パネルディスカッションだった。
大戸屋ホールディングスでは、以前から食べ残しの持ち帰りが行われており、直営店だけでなくFC店を含め、大きな混乱なく継続できているという。
しかし、その直後に語られた言葉は非常に率直だった。
「もし今ゼロから始めようとすると、コストや衛生面などさまざまな議論があって、もしかすると導入に至らなかったかもしれない」
食品ロス削減に積極的な企業から、この言葉が出たことの意味は小さくない。
食品残渣についても、「店舗の現場では余った食材を捨てることが当たり前の作業になっている」との現状が語られた。
リサイクルしたくても回収業者が限られる。少量ではコストが上がる。分別する作業も、保管するスペースも必要になる。FC店舗まで含めれば、統一した運用体制を構築することも容易ではない。
提供前の食材を寄付しようとしても、衛生管理、食中毒リスク、運搬方法、費用という別の問題が生まれる。
「やりたくない」のではない。「やりたい。しかし、安全に、継続的に、現場を止めずに実施するにはどうすればよいのか」。
その問いこそが、食品ロス削減を次の段階へ進める上で避けて通れないテーマなのだろう。

しかも、サステナビリティには「お金がかかる」

会場からは、さらに現実的な質問も投げかけられた。
新しい取り組みには当然、投資が必要になる。しかし、店舗運営、商品開発、購買、営業、管理部門では、それぞれが負っている数値目標が異なる。会社全体では必要な施策であっても、各部門から見れば「なぜ自分たちがそのコストを負担するのか」という問題が生じ得る。
パネルでは、「コストを圧迫する活動は本当に難しい」との声も聞かれた。
また、「経営陣にとって、このコストがかかるのにどこまでやるのかという問題は、どこの企業も持っている課題ではないか」との指摘もあった。
サステナビリティは理念だけで動かない。
経営目標に落とし込み、社内で共通認識をつくり、現場まで納得してもらわなければ、持続的な取り組みにはならないのである。

それでも、仕組みを変えれば結果は出る

一方、実践の成果も明確に示された。
ロイヤルホールディングスでは約272店舗でmottECOを導入し、年間約4万5000個のボックスが利用され、約11.2トンの削減につながっている。
東京農業大学では、学生食堂にフードシェアリングサービスを導入。さらに学生自身がアンケートを実施し、「閉店間際まで何を残すべきか」まで検討した。
結果、学生から最も支持されたのは「白米」。そこから提供方法やラストオーダーを見直し、ビュッフェ形式を維持しながら、食品ロス率を75%削減した。
ここに食品ロス削減の本質が見える。
余ったものを最後に何とかするだけではない。
そもそも、なぜ余るのか。
発注、調理量、提供方法、メニュー、販売時間、持ち帰り、従業員教育までを一つの仕組みとして見直す。その上で、それでも残った料理にmottECOという選択肢を用意する。
この順番なのである。

mottECOが必要なくなる社会こそ、最終形かもしれない

東京農業大学の入江氏は、将来、誰も食べ残さなくなれば「mottECOもなくなる」可能性に触れた。
これはmottECOの存在意義を否定する言葉ではない。むしろ、その思想を端的に表しているように思える。
目指しているのは、「持ち帰りを増やす社会」ではない。
まず、おいしく食べきる。食べ残しそのものを減らす。それでも残ってしまったときには、安全に持ち帰る。そして、それでも発生する食品残渣は可能な限り循環させる。
「mottECO FESTA 2026」で見えたのは、食品ロス削減を本気で実現しようとするほど、現場では責任、コスト、安全性、オペレーションという極めて現実的な問題に向き合わなければならないという事実だった。
だからこそ、善意だけに任せてはいけない。
食べ物を捨てないことを「頑張っている企業の特別な活動」から、誰もが無理なく実践できる日常の仕組みへ。
そこまで到達したとき初めて、「食べきること」が本当の意味で当たり前になるのではないだろうか。

松島基機

Editor’s Note


「mottECO FESTA 2026」は2026年7月27日、ホテルメトロポリタン エドモント2階宴会場で開催された。主催はmottECO普及コンソーシアム(一般社団法人フード・サステナビリティ協会)。2023年7月の初開催から4回目となり、行政関係者、民間企業のサステナビリティ担当者、大学関係者、一般消費者など約580人が来場した。
イベントでは、全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会の﨑田裕子会長による基調講演「連携により広がる食品ロス削減」をはじめ、環境省による「mottECO導入の手引き」の紹介、消費者庁とホテル事業者による「mottECO推進における課題と解決策について~リスクとの向き合い方~」などを実施した。
後半のパネルディスカッションには、農林水産省、多摩市、東京農業大学、ロイヤルホールディングス、大戸屋ホールディングスが登壇。アレフがファシリテーターを務め、食品ロス削減をさらに広げていくために必要な産官学民の連携や、現場で抱えている具体的な課題について議論した。
環境省からは、mottECOは食べ残しそのものを推奨するものではなく、まず「食べきり」を進めた上で、それでもやむを得ず発生した食べ残しについて持ち帰りという選択肢を設ける取り組みであることが説明された。
会場では40団体が食品ロス削減を中心とした環境活動などの事例を展示した。日本ホテルのブースでは「食べきり」「使いきり」「再利用」「持ち帰り」「リサイクル」「普及啓発」の6テーマでホテルならではの取り組みを紹介。2025年度の同社におけるmottECO利用実績は1,312件となり、約330kgの食品ロス削減につながった。
試食コーナーでは、帝国ホテル、京王プラザホテル with 三本珈琲、ザ・キャピトルホテル 東急、浅草ビューホテル、東京ステーションホテル、ホテルメトロポリタン、ホテルメトロポリタン エドモントの7ホテルが参加。スポンジ生地の端材を活用したブラウニー、余剰パンを使ったパンプディングなど、ホテル料理人の技術によって「もったいない」を「ごちそう」へ変えたサステナブルメニューが提供された。
会場内ではフードドライブも実施され、22点、合計3.7kgの食品が集まり、セカンドハーベスト・ジャパンへ寄贈された。
mottECO普及コンソーシアムには2026年7月1日時点で44団体が参加している。ホテル・外食企業のみならず、自治体、大学などへ参画主体が広がっており、個社だけでは解決しにくい食品ロス削減という課題に対し、知見や仕組みを共有しながら取り組むネットワークとして拡大を続けている。


HOTERES編集部

編集部

ホテル専門メディア『HOTERES』の編集チーム。創刊60年の専門誌「月刊HOTERES」と「HOTERES Digital」を横断し、経営、開発、投資、ブランド戦略、運営、食、人材といったテーマを軸に、取材および調査・分析を行っている。業界をリードする経営者やトップマネジメント、事業者・運営会社・投資主体への取材に加え、日本国内のホテル新規開業動向、ホテルチェーン一覧、売上高ランキングなどのデータ収集・整理を継続的に実施。マーケット・リサーチの視点も取り入れながら、ホテルを取り巻くビジネスの構造や意思決定の変化を多角的に提示している。