編集長コラム8

#編集長コラム8 宴会は、ホテルの底力を映す場所である

今週、エスコフィエ協会の晩餐会で、グランドプリンスホテル新高輪の「飛天」に伺った。

何度訪れても、あの空間には圧倒される。高い天井、きらびやかなシャンデリア、美しく重なるドレープ、そして壁面を彩るアコヤ貝の装飾。聞けば、その数は約30万枚にもおよぶという。単なる大宴会場という言葉では片づけられない。そこには、日本のホテルが大規模宴会という文化に注いできた時間と技術、そして誇りが宿っている。

私自身、自社のイベントでも飛天の間を体験してきた。多くの人が一堂に会し、料理が運ばれ、照明が変わり、音楽が響き、壇上の言葉に会場全体が集中する。あの瞬間、ホテルの宴会とは、単に「場所を貸す」仕事ではないのだと改めて感じる。空間、料理、サービス、音響、照明、進行、導線、設営、そして裏側で動く数え切れない人の力。それらが一つになって、初めて一夜の記憶が完成する。

近年、ホテル業界では客室単価やインバウンド、ラグジュアリー、DX、直販といった言葉が注目される。一方で、宴会について語られる機会は、以前より少なくなっているようにも感じる。婚礼需要の変化、企業宴会の減少、会議のオンライン化、人手不足、原価高騰。ホテル宴会を取り巻く環境は、確かに簡単ではない。しかし、だからといって宴会の価値が失われたわけではない。

むしろ、宴会はホテルの底力を最も分かりやすく映す場所である。
客室は一人ひとりのお客さまに向き合う場であり、レストランは食の記憶をつくる場である。では宴会は何か。宴会は、人と人が集まり、同じ時間を共有し、組織や社会の節目を形にする場である。企業の周年、業界団体の総会、表彰式、国際会議、晩餐会、婚礼、祝賀会。そこには、単なる飲食を超えた意味がある。誰かの人生や、企業の歴史や、業界の記憶が刻まれる。
ホテルが宴会を持つ意味は、そこにある。

宴会場は、施設の広さだけで価値が決まるものではない。何人入るか、何平米あるか、天井高が何メートルか。もちろん、それらは重要である。しかし、本当に問われるのは、その空間が何を受け止められるかである。格式、祝祭感、緊張感、華やぎ、余白、導線、料理の提供力、スタッフの統率。ホテルの総合力が問われる。
飛天の間のような空間は、まさにその象徴だった。

あと数年で、新高輪プリンスホテルの飛天の間は、建て替えによりクローズされると聞く。時代が変わり、街が変わり、ホテルの役割も変わっていく。建物はいつか更新される。機能も、デザインも、求められる設備も変わる。それは避けられない。
だが、変えてよいものと、変えてはいけないものがある。

変えるべきものは、時代に合わなくなった不便さである。オンライン配信への対応、国際会議に求められる通信環境、多様な食への対応、サステナブルな運営、働く人に過度な負担をかけない設営、柔軟な会場分割、照明・音響・映像の高度化。これらは、これからの宴会場に必要な進化である。

一方で、変えてはいけないものもある。
それは、人が集まることへの畏敬であり、節目を美しく整える覚悟だ。
そして一夜のために、ホテル全体が力を合わせる誇りである。

宴会は、効率だけで測れない。もちろん収益性は重要だ。人員配置、原価管理、会場稼働、単価設計、セールス力。これらを曖昧にしてよいわけではない。しかし、宴会を単なる収益部門としてだけ見てしまえば、その本質は失われる。宴会には、ホテルが地域や企業、業界、社会とつながるハブとしての役割がある。
大きな宴会場を持つホテルは、街の記憶を預かっている。

その場所で、多くの企業が節目を祝った。多くの料理人やサービススタッフが腕を磨いた。多くの若いホテルマンが緊張しながら一流の宴席を支えた。多くのお客さまが、忘れられない一夜を過ごした。そうした記憶の積み重ねこそが、ホテルの歴史になる。
だからこそ、これからの宴会場は、単に新しくなればよいわけではない。美しく、便利で、機能的であることは当然として、そのホテルが何を受け継ぎ、何を未来へ渡すのかが問われる。飛天の間が持っていた圧倒的な空間の力を、次の時代にどう昇華させるのか。それは決して簡単なことではない。

しかし、挑む価値がある。
ホテルの宴会は、古いビジネスではない。人が集まり、語り、祝う限り、宴会の価値はなくならない。変わるべきは形式であり、守るべきは本質である。

そして、その本質を支えてきたのは、いつの時代も現場の人たちである。飛天の間のような大宴会場では、表に見える華やかさの裏側で、サービス、調理、宴会予約、音響、照明、設営、クローク、誘導、清掃に至るまで、数え切れないスタッフが一夜のために動いている。料理が適切な温度で運ばれること。進行が滞らないこと。お客さまが迷わず席に着けること。壇上の言葉が会場の隅々まで届くこと。そうした一つ一つの当たり前を成立させるために、どれほどの準備と緊張感があるかを、私たちはもっと知るべきだと思う。

フランス産ピジョンと鴨フォアグラのパイ包み焼きトリュフ風味 セロリラブに茄子キャビア、ラザニアグラタン添え ポムロール赤ワインの沖縄県産生胡椒入りジュ・ソース
フランス産ピジョンと鴨フォアグラのパイ包み焼きトリュフ風味 セロリラブに茄子キャビア、ラザニアグラタン添え ポムロール赤ワインの沖縄県産生胡椒入りジュ・ソース

今回プリンスホテルの宴会に関わってこられた皆さまには、心からの敬意を表したい。飛天の間という圧倒的な空間は、建築や装飾の力だけで成り立ってきたのではない。そこに集う人々の節目を美しく整え、一夜を滞りなく支え続けてきたスタッフの力があってこそ、あの場所は日本を代表する宴会場であり続けたのだと思う。

宴会は、ホテルの底力を映す場所だ。
そして、ホテルが社会の節目を支える存在であり続けるために、これからも磨き続けなければならない大切な機能である。

時代に合わせて変えるもの。
時代が変わっても守るもの。
その両方を見極めることが、これからのホテル宴会に求められている。

ホテレス編集長 義田

義田真平(Yoshida Shimpei)

義田真平(Yoshida Shimpei)

㈱オータパブリケイションズ 執行役員 月刊HOTERES編集長

兵庫県出身、阪神タイガースとともに育つ。ホテル等の現場経験から「答えは現場にある」を信念に、営業部長として収益改革を推進。現場起点の実務知と経営視点を融合し、利益と顧客体験の両立やF&B部門の収益化を提言する。現在は自治体連携やラグジュアリー領域など領域を越えて活動。現場を軸に、ホテル・観光業界の未来設計に挑む。