#編集長コラム26

#編集長コラム26 忙しいホテルほど、仕事を減らした方がいい。人手不足の時代に問われる、「人を増やす経営」から「仕事を減らす経営」への転換

人が足りない。
採用できない。
残業が増えている。
現場が疲弊している。

ホテル業界の人と話していると、こうした話を聞かない日はないと言ってもいい。

人手不足は、もはや一時的な問題ではない。

だから採用を強化する。
外国人材を採用する。
給与を上げる。
DXを進める。
AIを使う。
ロボットを導入する。

もちろん、どれも必要なことである。

しかし最近、ホテルの現場を見ながら、もっと単純な疑問を持つようになった。

「その仕事、本当に全部必要ですか?」

人が足りないのなら、人を増やす。
その発想自体は間違っていない。

しかし、人が足りないのであれば、その前にやるべきことがある。

仕事を減らすことである。

ホテルには、驚くほど「昔からやっているから」という理由だけで残っている仕事がある。
紙に書いたものを、あとからパソコンに入力する。
システムに入力した数字を、別のExcelにも入力する。
メールで送った内容を、紙でも回覧する。
印刷して、押印して、ファイルに保管する。
誰が読んでいるのか分からない日報を書く。
何のために開かれているのか分からない会議に参加する。

何年も前に決められたルールを、「そういう決まりだから」と守り続ける。

もちろん、法令や安全管理上、必要な記録もある。ホテルによって事情も違う。

それでも、「なぜこれをやっているのですか」と聞いたとき、

「昔からそうなので」

という答えが返ってくる仕事は、一度疑ってみた方がいい。

そして、紙をデジタルに置き換えることだけがDXではない。

紙でやっていた仕事を、タブレットでやる。
手書きしていたものを、システムに入力する。
電話で受けていたものを、アプリで受ける。
10分かかっていた仕事が5分になった。

素晴らしい。
では、残った5分で何をするのか。

私は、ここが一番重要だと思う。
5分早く仕事が終わったスタッフが、その5分でまた別の事務作業をする。

新しい報告書を書く。
別のシステムに入力する。
新しい会議に出る。

それでは、何のためのDXなのだろう。

ホテルにおけるDXの目的は、単に作業時間を短縮することではない。

「人の時間を、お客さまのところへ戻すこと」
私は、そう考えている。

フロントでチェックインの作業が5分短くなった。
その5分で、お客さまと話せばいい。

「今日はどちらからいらっしゃったのですか」
「このあと、どちらかへ行かれるのですか」
「お子さまは何がお好きですか」

そんな何気ない会話から、その人にしかできないサービスが始まる。
レストランの事務作業が30分減った。
その30分で、テーブルを見ればいい。

料理を食べるスピード。
グラスが空くタイミング。
子供が少し退屈していること。
記念日の二人が、今日はゆっくり話したそうにしていること。

画面を見ているだけでは分からないことが、ホテルにはいくらでもある。

そして、今後ここにAIが大きく入ってくる。

メールの下書き、議事録、翻訳、情報整理、資料作成、定型的な問い合わせへの対応。
これまで人が時間をかけていた仕事の中には、AIによって大幅に時間を短縮できるものが、これからさらに増えていくだろう。

私自身、AIを使うようになって強く感じることがある。
AIの価値は、「人間よりすごい文章を書くこと」だけではない。

むしろ大きいのは、人間が使っていた時間を返してくれることだ。
1時間かかっていた仕事が20分で終わった。
では、残った40分を何に使うのか。

ここに、その会社の思想が表れる。

40分空いたから、さらに40分ぶんの仕事を詰め込む。
それでは、AIを導入しても現場は永遠に忙しい。

ホテルなら、その40分をお客さまのために使ってほしい。
ロビーに出る。
お客さまと話す。
常連のお客さまの好みを知る。
若いスタッフと話す。
地域を歩いて、新しい店を知る。
次のサービスを考える。

AIによって人間が不要になるのではない。
AIによって、人間が「人間にしかできない仕事」に戻れる。

ホテルにおけるAI活用の本当の価値は、そこにあるのではないだろうか。

以前このコラムで、「笑っていたのは、ロボットだけだった」と書いた。
あのときも、ロボットを否定したかったわけではない。

むしろ逆である。
機械にできる仕事は、もっと機械に任せればいい。
AIにできる仕事も、AIに任せればいい。
紙も減らせばいい。
入力も減らせばいい。
会議も減らせばいい。
報告書も減らせばいい。

その代わり、人間には人間にしかできない仕事をしてもらう。

お客さまを見る。
話を聞く。
表情を読む。
名前を覚える。
好みを知る。
困っていることに気づく。
そして、「また来たい」と思ってもらう。

そのためにテクノロジーを使うのである。
そして、もう一つ、ホテル業界には必要なことがある。

「何でも自分たちでやろうとしないこと」である。

特に地方のホテルを訪れていると、とても良いものを持っているのに、どこかチグハグに見えることがある。
建物は素晴らしい。
食材も素晴らしい。
働いている人たちも一生懸命である。
それなのに、ホームページは古い。
写真ではホテルの魅力が十分に伝わらない。
SNSの発信には統一感がない。
予約までの導線が分かりにくい。
デザイン、広報、マーケティングが、それぞれ少しずつ噛み合っていない。
素材はいいのに、伝わり方で損をしている。

私は、そんなホテルを何度も見てきた。

その理由の一つは、「できるだけ自分たちでやろう」としてしまうことにあるのではないかと思う。

ホテルのスタッフが、宿泊運営をしながら写真を撮り、SNSを更新し、チラシをつくり、Webサイトを直し、広告を考え、採用まで担当する。

もちろん、内製すること自体が悪いわけではない。

自分たちだからこそ分かるホテルの魅力もある。
しかし、本当にそれが一番良い人の使い方なのだろうか。

写真には写真のプロがいる。
デザインにはデザインのプロがいる。
WebにはWebのプロがいる。
マーケティングにも、広報にも、採用にも、それぞれ専門家がいる。
自社にない能力まで、無理に抱え込む必要はない。
必要なところでは、外部の力を借りればいい。
これは単なる「外注」ではない。

これからのホテル経営には、優れた外部パートナーをチームの一員として使いこなす力が必要になると思っている。

何を自分たちがやるのか。
何をやめるのか。
何をAIやシステムに任せるのか。
何を外部のプロフェッショナルに任せるのか。
そして、何だけは絶対に自分たちの人間がやるのか。
この仕分けこそ、これからのホテル経営者の仕事ではないだろうか。
ホテルが自社で守るべきなのは、すべての「作業」ではない。
守るべきなのは、そのホテルの思想と、お客さまとの関係である。
そして、人手不足になると、もう一つ危険なことが起こる。

「とにかく人を採ろう」
となってしまうことである。

しかし、人手不足だからといって、誰でもいいわけではない。
むしろ、人が少ない時代だからこそ、一人ひとりの質はこれまで以上に重要になる。

ホテルが本当に欲しいのは、単なる「頭数」ではないはずだ。
お客さまに興味を持てる人。
自分で考えられる人。
周囲を見られる人。
仲間と働ける人。
誰かに言われる前に、一歩動ける人。

そして、この仕事を好きになれる人。
そういう「いい人」が欲しい。

しかし、ここで経営側が直視しなければならない現実がある。

採用市場に、自社が欲しい人材が都合よく余っているわけではない。

いい人材ほど、選択肢を持っている。
ホテルだけを見ているわけでもない。

他のサービス業、IT、金融、メーカー、商社、エンターテインメントなど、さまざまな産業が同じ人材を求めている。

だから、
「人が足りないから採用する」だけでは、もう解決しない。

私は、やるべきことは二つだと思っている。

いい人に選ばれる会社になること。
そして、今いるいい人が、本当に価値のある仕事に時間を使える会社になること。

そのためにも、仕事を減らさなければならない。
優秀なスタッフに、紙を整理させている場合ではない。
優秀な料理人に、意味の薄い書類を何枚も書かせている場合ではない。
優秀なマネジャーを、一日中社内会議に座らせている場合ではない。
優秀な総支配人が、ほとんどロビーに出ることなく、メールとオーナー向けの資料作成だけで一日を終えていいはずもない。

人手不足とは、
「人がいない問題」だけではない。

「人の時間を何に使っているか」という問題でもある。

ここを変えないまま採用人数だけを増やしても、穴の空いたバケツに水を注ぎ続けるようなものだ。

そして、これは従業員満足にもつながっていると思う。

人は、忙しいから辞めるとは限らない。
自分の仕事に意味を感じられなくなったときにも辞める。

ホテルが好きで入社した若者が、一日の大半をパソコンへの入力と書類作成に費やす。
お客さまと話したくてサービス業を選んだ人が、画面ばかり見ている。
料理が好きでホテルに入った人が、料理以外の作業に追われる。

それで、「若い人がホテル業界に定着しない」と言っているのだとしたら、少し順番が違うのではないだろうか。

仕事を減らすことは、手を抜くことではない。
サービスを減らすことでもない。
むしろ逆である。

価値を生まない仕事を減らして、
価値を生む仕事に時間を使う。

私は、これからのホテル経営に必要なのは「足し算」だけではないと思っている。
新しいサービスを始める。
新しいシステムを導入する。
新しいプランをつくる。
新しい会議体をつくる。
新しい報告ルールをつくる。

ホテルは、何か問題が起きるたびに、仕事を一つずつ増やしてきた。
しかし、一度増えた仕事はなかなか消えない。

だから今度は、経営者が意識的に「引き算」をしなければならない。

「これは、やめよう」
そう言える経営者が必要なのである。

そして、もう一つ大事なのは、効率化によって空いた時間を会社がすぐに取り上げないことだ。

30分空いた。

その瞬間、
「では、これもやってもらおう」と新しい仕事を入れてしまえば、現場は永遠に忙しいままである。

その30分を、お客さまのために使わせてほしい。
ロビーに立つ。
レストランを歩く。
常連のお客さまと話す。
地域を歩く。
若手スタッフと話す。
サービスについて考える。

一見すると数字に表れにくい時間こそ、ホテルの価値をつくっている。

前回のコラムで、私は「人生に、何を残すのか」と書いた。

ホテルは、お客さまの人生に豊かな時間を残すことのできる仕事だと思っている。
だからこそ、少し矛盾を感じる。

お客さまに豊かな時間を提供するホテルで働く人たち自身が、なぜこれほど時間に追われているのだろう。

時間に追われている人に、「お客さま一人ひとりに寄り添ってください」と言っても無理がある。

笑顔で接してください。
名前を覚えてください。
会話をしてください。
期待を超えてください。
パーソナライズしてください。
そう求めるのであれば、まずそのための時間を渡さなければならない。

DXとは、システムを導入することではない。
AI活用とは、人をAIに置き換えることでもない。
外部パートナーを使うことは、自分たちの仕事を放棄することでもない。

すべては、
「人間が、人間にしかできない仕事をするための時間を取り戻すこと」につながっている。

人手不足だからこそ、仕事を増やさない。
人手不足だからこそ、誰でも採用しない。
人手不足だからこそ、AIやテクノロジーを使う。
人手不足だからこそ、外部のプロの力も借りる。
人手不足だからこそ、いい人を大切にする。

そして、いい人の時間を、価値を生まない仕事で奪わない。
これからのホテル経営で最も貴重な経営資源は、人の数だけではない。

その人が持っている「時間」である。

一枚の紙をなくすことからでもいい。
一つの会議をやめることからでもいい。
一つの報告をなくすことからでもいい。
一つの仕事をAIに任せることでもいい。
一つの専門業務を、信頼できる外部パートナーに任せることでもいい。

そして、そこで生まれた10分を、お客さまのために使ってほしい。

その10分の会話が、次の宿泊につながるかもしれない。
その10分の気づきが、忘れられない滞在をつくるかもしれない。
その10分が、若いスタッフに「ホテルの仕事って面白い」と思わせるかもしれない。

人が足りない時代だからこそ、人をもっと大切にする。

その第一歩は、人を増やすことではない。

人の仕事を、減らすことなのかもしれない。

HOTERES編集長
義田 真平

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義田真平(Yoshida Shimpei)

義田真平(Yoshida Shimpei)

㈱オータパブリケイションズ 執行役員 月刊HOTERES編集長

兵庫県出身。阪神タイガースとともに育つ。ホテルやレストランなどの現場経験を通じて、「答えは現場にある」という信念を培う。現在は創刊60年を迎える業界専門誌の編集長として、歴史を継承しながら、変革が求められるホテル業界の現在地と未来を発信。
編集、イベント、自治体連携を横断し、人材不足、F&Bの収益化、DX、ラグジュアリー、地域観光、次世代経営などを主なテーマに、現場の実務知と経営視点をつなぎ、業界に必要な問いと提言を届けている。

取材、寄稿、講演、セミナー、紙面企画、協業など、ホテル・観光業界の未来につながるご相談をお待ちしてます。

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