
Profile
今野有子氏
株式会社アルムンド代表取締役/Philosophy Technologies inc. Co-CEO
早稲田大学商学部卒業後、武田薬品、リクルートエージェント(現リクルート)で法人営業を経験。ニュージーランド、スペイン、フランスに留学後、株式会社アルムンドを創業し、ワインを通じて、新たな市場と顧客体験の創出に取り組んできた。ファイナルファンタジー30周年記念ワイン(スクウェア‧エニックス)をはじめ、ヤマハ、NTTドコモ、東急不動産、関⻄電力グループなど、多業種にわたる大手企業とのコラボレーションを実現。ワインの輸入販売にとどまらず、ボルドーやブルゴーニュ、ロンドンで得たワインの知見を活かした様々なイベント企画、高級旅館やミシュラン星付きレストランなど、ハイエンド顧客層にコンサルティングを多数手掛ける。これまで6カ国で4言語を用いて生活した経験から培った多文化的な視点を強みに、現在はシリコンバレーを拠点に、哲学的思考を活用したビジネスをグローバルに展開している。
主な書籍:★★Amazonカテゴリーランキング1位「ソムリエ・ワインアドバイザー・ワインエキスパート資格・検定関連書籍」を獲得(8/14)★★「目に見えない価値の伝え方 顧客を感動させる提案の技術」、「エグゼクティブはなぜワインにはまるのか?」(クロスメディア・パブリッシング(インプレス))ほか
異色のキャリアがもたらす多文化的な視点
今野氏は製薬会社や人材紹介会社の営業職を経て、2007年にニュージーランドへ留学。現地でワインに魅了され、帰国後に資格を取得後、渡仏・渡西して文化と語学を学び、2009年にアルムンドを設立しました。「自ら現地で探し当てたワインで、人と人をつなぐ」をミッションに、世界各国の希少なワインを直輸入し、「日本ではここでしか買えない」をコンセプトにした専門店「ここだけワイン」を運営。2017年にはブルゴーニュのワイナリーに住み込み、醸造も学びました。これまで6カ国に暮らし、2021年からは米国に移住。現在はシリコンバレーから、哲学をビジネスに応用する事業を展開しています。目利きや値付けの経験から「価値を生み出すのはワインそのものではなく、言葉(思考)である」と気づき、現象学や美学といった哲学領域へ関心を深めたといいます。「ワインと哲学のベースにあるのは『人間への興味』。なぜワインの値段が千倍もの差を生むのかは、結局は人間理解の話です」と今野氏は語ります。
ワインが映し出す価値の本質とは
長年業界を見つめる中で、今野氏は「ワイン愛」が強すぎるゆえにプロダクトアウトが先行し、顧客への関心が薄れる風潮に違和感を抱いてきました。「大事なのは価格ではなく相手の反応をきちんと見られるかどうか。それができる方こそ本当のエグゼクティブです」と強調します。資本主義的な「価格=価値」という極端な結びつきに皮肉を感じる一方、気候変動で伝統的なワイン産地という正解が失われつつあるという「不都合な真実」も冷静に見つめています。一方で、ワイングラスの形状が味の感じ方を科学的に変化させるなど、ワインを楽しむための「技術」には確かな根拠があります。今野氏はこうした知識や背景を知ることで、より自由に自分らしくワインを楽しめるようになると考えています。
新著に込めた想いと「わかったふり」への警鐘
新著は、ワインに苦手意識を持つリーダー層などをイメージして執筆されました。第1章の「知性の格付け──なぜ、100万円のワインを開けても遠ざけられるのか?」という挑戦的なタイトル通り、高いワインを開けて偉そうにする「自称ワインわかっている勢」へ本音で切り込んでいきます。「ワイン好きの6〜7割は思い込みを指摘されると怒りますが、本当に余裕のある方は謙虚に対話ができます」と語ります。知識がすぐ手に入る現代だからこそ、既存の正解や価格に依存せず、自分の感覚を言葉にして相手とフラットに対話するプロセスこそが、エグゼクティブの美学だと力説します。今野氏の活動は、ゲーム(ファイナルファンタジー)の世界観を表すワインの商品開発など業界の垣根を超えて広がっています。「文化や感性、物語を通して、人や組織が自分たちの言葉で『価値の本質』を語れるように、人間が意味を見出すプロセスを支えたい」とビジョンを語ります。
ホテル・旅館業界のマネジメント層にとっても、ゲストに提供する「価値の本質」を見つめ直すヒントが、このワインと美学の対話の中に隠されているのではないでしょうか。今野氏が紡ぐ人間理解のストーリーは、今後も私たちの感性を心地よく刺激してくれそうです。ぜひ、次回からの連載もお楽しみに。
Editor’s Note
たくさんの会食の機会に恵まれますが、「ワイン」会などは避けていました。理由は「鼻持ちならない連中」がいるからです・・食事の本質はフラットに「楽しく食べる」ことです。書籍も読んで、実際に著者お会いし「ワインの勉強でも始めようか」と素直に思いました。ホテル・旅館業界のマネジメント層の方々にとっても、ゲストに提供する「価値の本質」を見つめ直すヒントが、このワインと美学の対話の中に隠されているのではないでしょうか。今野氏が紡ぐ人間理解のストーリーは、今後も私たちの感性を心地よく刺激してくれそうです。ぜひ、次回からの連載もお楽しみに。世界各地のワインにまつわるショートエッセイです。 文:林田研二